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小説お化けにナロウィーン!

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奇怪な事件が起こる場所には近寄らないほうが良いなんて 

いつもの交差点にだってゾンビが雪崩れる事もあるよーに 

ひとり浸かった湯船には逆さ世界への扉が沈んでいるものだ。




 11月にいちばん近い10月のとある日、空前絶後の雪嵐がやって来た。
 授業中だった教室の窓は砕け散り厳冬が顔を覗かせた。雪達磨の急襲に皆、逃げ惑う事しか出来なかった。
 吹雪が止んだ後には廊下や階段は氷像で溢れかえっていた。表情から凍てついた悲鳴がいつまでも聞こえる。
 奇跡的に生き延びた人達は校舎2階の図書室に居た。応急処置として割れた窓を本棚やカーテンで塞ぎ部屋の中央に置いたストーブを囲って身を寄せ合っていた。
 でも、夜になる頃にはその灯火も消えて付かなくなってしまった。そろそろみんな凍え始めている。
 ここに居るのは僕を入れて6人、隣のクラスの担任のフチャナ先生と小柄なペロ、彼女を連れて逃げてきたと言うウッティとその彼女らしきマヨナ、丸坊主に丸眼鏡をした少しひげの濃い僕の嫌いなリータだけだった。
 突然、フチャナ先生が震える生徒を見兼ねたのか意を決したように立ち上がった。
「そうよ!本を燃やしましょう!みんな!ここは図書室ですよ!」
 ペロは今だとでも思ったのか「ほーん!」と、裏返った声を出して先生の長い足に飛び付いた。
 フチャナ先生はいつもタイトな短いスカートを穿いていて、高いヒールで渡り廊下を歩く姿はよく話題になっていた。
 先生は器用にピボットターンをしながら床に散り乱れた本を物色した後、ペロの頭を分厚い本でポカポカした。
 ペロの頭は少し凍りかけていたようで、残った雪なのか氷が周囲に飛び散って聖人みたいな光の輪を作った。
「おいその辺でやめておけ!死ぬぞ・・・ それに本は燃やすものじゃない!」
 ウッティはフチャナ先生の手から本を取り上げると横でうずくまるマヨナに渡した。
「マヨナ・・ 俺なら大丈夫だから、な」と、マヨナの頭をなでなでした。
 マヨナは少し顔をあげてから震える手で本を受け取るとウッティを見つめ続けた。
 ウッティの頬がぽかぽかし始めたかと思うとウッティは制服の上着を脱いで突き出した。
「いいかみんな!これだ!これを燃やすんだ!」
「それはダメです!」
 先生が制止するもウッティは突っぱねた。
「いやこれはな思い出のブレザーなんだ!この俺の青春なんぞが封じ込められているのだ!裏地にはリュウ!」
 ウッティの瞳の奥が輝き出すのが見えた。
「絶対に燃える!確実にたぎる!灼熱の炎となり皆を暖め尽くすであろう!」
「超ウルトラスペシャルスーパーミラクルサンダーグレートワンダフルレインボーエクスプレスドラゴンファィイヤヤヤ―」
 何かの詠唱だろうか?ペロは先生の足にまだしがみ付いている。
「ウッティ…」
 マヨナは頬をぽかぽかさせながらウッティを見上げていた、すぐさま皆に背を向けて座り直すと足を交互に伸ばしてもぞもぞした。
 すっかり暗くなった図書室での微かな月明かりがその一瞬、リータの眼鏡に全反射した。
「ねえ、これも使って」
 頬をぽかぽかさせてマヨナは下を向いたまま握り締めた何かをウッティに手渡す。
「ぬわにぃ!こ、これは・・!」
 ウッティの手の上で何かほくほくした毛糸の編み物がゆっくりと膨らみ始めた。


   〔チャプター1:残された者達〕




 お昼休み、僕は一番後ろの席でごぼう炒めと卵焼きとウインナーの入ったお弁当を食べていた。
 リータの席はひとつ前でその時間になると僕の方を向いてワッパーエンペラーのデラックスワッパーを頬張る。
 先ず僕がお弁当箱を机の上に出すとリータの肩がぴくりとする。
 次に蓋を開けると彼は黒い縁の分厚いメガネを光らせながら首だけ回して中身を覗き後ろ向きに座り直して言う。
「ようようよう!ウマいなぁこれーっ!」
 リータは声を張り上げながら皺くちゃの紙袋を取り出し内紙をめくってDXワッパーを頬張る振りをする。
「パクパク…マジパネーぜぇー!ウンメェー!」
「プス……もぐもぐ」
 僕はウインナーを口にしながらお弁当と静かに向き合った。
 リータは僕とお弁当の間に顔を割り込ませては同じような事を何度も言う。
「クウゥー!サイコー!パクパクパク!たまんねーなーお前にも一口分けてやろうかー!」
 僕は箸を置き黙り込んだ。だってリータが食べているのは僕が懸賞に応募して当てたレプリカだからだ。
「聞こえてンのかよえ?おいコラ!」
 リータはいつもお弁当を持ってこなかった。売店の無いこの学校で彼はお昼になると姿を消していたんだ。
 僕はリータに聞いた事がある、お弁当を食べないの?って。そしたらリータは「そんなの要らねーっ!俺は抜け出して外で好きな物を食ってんだ!」って言った。
 学校を出て駅まで行くとワッパーエンペラーがあり僕も時々そこに寄るのでワッパにも行くの?と聞くと「御用足しだ!大好物すぎてシャレにならんぞ!」などと言っていた。
 だから、子供の頃に懸賞で当てて大切にしてたDXW-GPBLTEをリータにあげたんだ。それ以来リータはお昼休みに姿を消さなくなった。

 僕はお箸を揃えてリータに差し出した。
「何かお腹いっぱいでさ、良かったら食べる?」
 きょとんとするリータはおもちゃを置いた。
「おい!残す気でいたのか?勿体無い奴だな!この野郎貸せ!」
 彼は僕から箸をもぎ取ると弁当箱に顔を近づけて動かなくなった。
「あっごめん、卵とごぼうしかもう入ってないけど」
「……がつがつがつガッ」
 早技だった。お弁当箱を垂直に立てて中に入っているもの全てがリータの口に流れていく。
 自分のお弁当箱の裏を初めて見た。お箸は高速で動いていて100本くらいに見えた。
「あ、間接キッス」
「ブッフォー!!」
 コンっ カランカランカラーン ざわざわ… ざわざわ…

 突然で何が起きたのか僕には分からなかった。リータはごぼうとたまごまみれになっていて、みんなざわついていた。
 リータは中腰のまま佇みメガネが傾いていた。集団から逸脱している二人、周りの視線が痛覚に思えた。
 誰かが笑うとみんな笑い出した。「あは「おいあれ見ろよ」はは「アハハ」はあは「え?マジ」はは」
「げほげほ!テメェ・・これが狙いだったんだな!面白い事言ったつもりかテメェばかにしやがって!!」
「まってリータ違…」
「げほげほ!お前まじでしねクソがッ!何がトーマスランチボックスだよボケ!!」
 机の上のお弁当箱の蓋に向かってリータは怒鳴っている。僕は何も言えなくなっていた。
「げほげほ!覚えてろよこの野郎!ガン!ズコーゴイーン」
 リータは椅子を勢いよく蹴飛ばすと床に転がるお箸に足を取られ机にぶつかり仰け反りながら僕の唇を奪った。
 皆が笑う中リータは肘で顔を押さえながら教室を出る。天井には赤い染みが付いていて僕はそれを眺めていた。
 突然の悲鳴が耳を引掻く。血相を変えた子が僕を凝視していた、視線を辿ってみると膝にお箸が刺さっていた。
 そして僕は気を失ってしまった。それからリータとは話をしていない。僕はもう謝れないままでいた。

 静かな夜に目を閉じると痛みと共に思い出が姿を変えて動き始める。
「外にはどうやって出られるの?」
「はぁ?見つかんなきゃいいーんだよバカか」
「駅の近くにワッパーエンペラーがあるね、あそこ美味しいね」
「おう!御用足しだ!大好物すぎてシャレにならんぞ!」
「お前も一緒に来るかって言ってくれないんだね」
「来たきゃ来ればいいだろ何なら買ってきてやろうか?」
「うん!」

 何だろうこの感覚、絶対に要らない。バラバラに壊れたDXW-GPBLTEはもう彼の物でも僕の物でもなくなっていた。


   〔チャプター2:ゴーストパンプキンベーコンレタストマトエッグ〕