三姉妹
「一本の矢は折れェル!ペシッ! デも三本ナらグギギギ…折れえル!ベシイィッ!」
病の床に就いていた祖父が自慢の孫三姉妹を呼び、何処かで聞いたような例え話を実演していた。
「しかシダね、もスも素材が人骨であったなら一本丸ままペロリなのだヨォ」
「やられたな…」
長女はそう呟き次女と三女に警戒を促した、ふたりは視線を結び頷いた。ここは、三姉妹がまだ幼い頃に消息を絶った父の実家となる郊外の大屋敷。玄関からここまで鴨居を幾つくぐったのか分からなくなる程であった。そして、迎えに出てきた女中に荷を預けるべきではなかったと、今更ながら三人は後悔していた。荷には今、目前で壊された武具を入れていたからである。
長女は殺気を感じていた。状況を断定してそれはそうなのだが、部屋の中央で座る祖父…のような者からだけではなく、碁盤のように配された周りの部屋からのものである。三女も敏感にそれを察知しているらしい。
「ヤバイよクレイン姉ちゃん!」
恐怖を感じてちびりっ子になりそうな三女のユミが漏らした。すぐさま次女のフェテスが落ち着かせようとする。
「あなたも…弱ってさ……、魔鬼に取り憑かれてもぉ、んー何も心配いらないわチッチッチ!必ずユミを殺してあげるから」
「え?俺を?、え?…、だー!!イヤだイヤだー!ぜったいぜったいブッ殺す!」
戦慄を闘志に換えるユミと、余裕の中に悪意を溶かし込むフェテスを背後に長女は屈み込んで何やら忙中であった。緩りと立ち上がった祖父の目が赤く光りはじめている。長女もやっとで腰を上げると額の汗を弾いて口を開いた。
「鬼に金BOWってね」
クラインは手荷物とは別にバックパックを背負っていた。その中には、此処へ向かう途中に寄った行き付けの武具屋で受け取った試供品を詰め込んでいたのだ。とっさにそれを思い出したクラインは、勘を頼りにパーツの類を組み上げてみせた。ボルトセット済みの小型弓を三女に投げ渡し、プロトタイプの連発式弓を抱える。最後に銀製のボルトを次女に取らせた。フェテスは二本の矢をバトンのように回転させ逆手に構えた後、長女を寸で見して言った。
「残り物には福がARROWって感じですかね」
少しばかり耐え難い悪寒から自身を守ろう、というのではなく、寧ろそれには、援護射撃的な意味を含んでいた。
〔三姉妹〕
挿絵( http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/sawani-co/20190717/20190717033621.jpg
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