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マクギブス

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冷えきった夜明け前。二人の影が空を駆けた。 

「なぁマクギブス。どうしてこんなに良くしてくれるんだい?」 

びゅーんばたばた!風が僕達のつないだ手を揺らす。 

マクギブス「君が空を飛びたいと言うのなら僕はそうする。君が眠りたくないと言うのなら僕は一緒に起きててあげるのさ」 

「ありがとう」 

まだらにふくらんだ青い雲のてっぺんに光がかかりはじめた。 
雲の隙間から覗くブドウ畑とそれらをつなぐ細い道が何か大きな編み物みたいだ。 

マクギブス「寒くないかい?すまないな気づいてやれなくて。僕のコートを半分あげよう」 

「ありがとう。あ太陽だ!太陽だよマクギブス!」 

彼はコートを半分脱いでから僕を抱き寄せて暖めてくれた。 

マクギブス「もうすぐ夜明けだ。ほら夜あんなに輝いていた星達も今は眠たそうじゃないか。オヤスミと言ってあげよう」 

「うんオヤスミ」 

二人は日の光を全身に浴びて輝きだす、そしてその後ろでも何かが光っていた。 

「ねえあれは何だろう、付いて来てるの?」 
マクギブス「夜の内は気付けなかったがずっと居たのかも知れないな」 

「え怖いよマクギブス!」
マクギブス「進路を変えてみよう。それでも後ろに居たら付いてきているという事さ」 
「うん」 

僕たちは飛ぶ速度を速めながらもっと上昇した。びゅーんばたばた!風がきびしい。 

マクギブス「どうだいまだ付いてきているか?」 
僕は足元に白い光をみつけた。 

「どうだろう、よくわからないよ」 

マクギブス「よし僕が伺おう。このまま下を通り過ぎればよいがな」 

僕達は減速して少し様子を見ることにした。マクギブスは安心させるように僕を抱きしめた。 


日が昇り光が霧に変わってゆく。重たい雲は去り空が少し暖かくなってきた。 

「どうマクギブス?分かる?」 
僕は静かに伺う彼の胸の中でそう聞いた。 

マクギブス「僕達の様子を伺っているようだ、距離をとって止まっている」 
マクギブスの腕越しに見えたそれは人の形をしていた。 

「ねえマクギブス!早く行こうよここに居たくない!」 
僕はそういってマクギブスの腕を揺すった。 

マクギブス「君が望むならそうしよう、ただひょっとするとあれは君の・・」 
僕は言葉を遮るようにコートの中から抜け出して彼の手を引っ張った。 

「お願いマクギブス!あの人が居ない場所まで連れてって!」 

風は流れているのに少し時間が止まってみえた。 

マクギブス「分かった」
びゅーんばたばた!マクギブスは僕の手を強く握って速度を上げた。 

光は後方で小さくなり見えなくなった。その途端僕の中から音がした! 

マクギブス「ははは、今のは君のお腹かい?」 
「う、うん。おなかすいた」 

マクギブス「よし、こいつを頬張るといい。さあお食べ」 
マクギブスは背中から大きいパンを取り出して僕に寄こした。 

マクギブス「焼きたてではないけれど味は保証するよ」 
「わあ!」

マクギブスの手から受け取る時に僕はそのパンを半分にちぎった。 
「一緒に食べようよマクギブス」 

マクギブス「やさしいんだね君は」 
「うん」 

やわらかいパンを食べながら僕のほっぺは少し赤くなっていた。 


上空が紺碧を極めはじめた、太陽が放たれている。風はまだ冷たい。 

二人でパンを食べた。やさしく見つめるマクギブスの目を僕は見つめたり逸らしたりした。 

マクギブス「満足出来たかい?」 
「もぐもぐ」ふんふん 
食べ終われない僕は首を縦にたくさん振ってみせた。 
マクギブス「フフフ君は可愛いね」 

微笑むマクギブスの肩に光る手が乗っていた。 
「ファ!ファフヒブフッ!ブヒロ!ブヒロ!!」パンが口の中から踊り転げ出す。 

マクギブス「クッ!」 

光る人影はマクギブスの首にしがみ付いていた。 
マクギブス「やはりなこれは君だ!ック!君の居残り細胞だ!」 

「え?!」 

マクギブス「君の体は逝きたがっていない、つまり君は生きる!しかし何故僕を選ぶのか」 
マクギブスはそう言いながら落下していく。 

「どういう事なの?マクギブス~!」 

マクギブス「そうだないいかいこれから君が僕になるんだ!パンを食べたから大丈夫だー」 
「あんまり食べれてな気がするよマクギブス!」消えて行くマクギブスに手を伸ばしたけど届きはしない。 

「待ってマクギブスー!」 

唯々澄み透る空の中で僕はひとり浮かんでいた。 
僕は少し上を見上げた。そこには鳥が飛んでいた。 


「…僕、鳥になるよマクギブス」 


ママ「早く食べなさい」 



            〔マクギブス〕

挿絵( http://img.f.hatena.ne.jp/images/fotolife/s/sawani-co/20161128/20161128202404.jpg )