デッサン泊まり
「どけ!描けない」
筆とパレットを持った女を押しのけるような男の言葉。
「嫌よ!」
女はその後ろにある石膏像のように動きをとめている。
「僕はどけと言っている!」
「私を描けばいいじゃない!」
「分かった」
そう言うと男は女に背を向けて続きを描き始めた。
静かな美術教室に日が入り込みカーテンが揺らめく。
「そういうのが嫌なのよ君の!」
女は少し長めのカーディガンを脱いで肩を露出させた。
「見て」
「・・・」
「お願い」
「・・・」
「私は石像に負けたのかな」
「・・・」
男は黙々と自分のデッサン世界を描き続けている。
「私がキミの恋人を連れ去ったらどうする?」
男は振り返ると惚れなおすように女をみつめた。
佇む石膏像よりも白く輝いていて見えたのかも知れない。
〔デッサン泊まり〕
挿絵( http://img.f.hatena.ne.jp/images/fotolife/s/sawani-co/20161127/20161127215241.jpg )